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東京地方裁判所 昭和55年(特わ)3222号 判決

本店所在地

東京都港区南青山五丁目九番一五号

新共同ビル六〇五

林江食品株式会社

(右代表者清算人石江宗明)

本店所在地

東京都港区三田三丁目四番一八号

東北物産株式会社

(右代表者代表取締役矢部博史)

本藉

東京都世田谷区北烏山二丁目一四六三番地

住居

東京都世田谷区北烏山二丁目九番二号

都営住宅三〇五号

会社役員

矢部博史

昭和一三年三月二三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官上田廣一出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人林江食品株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人東北物産株式会社を罰金一五〇〇万円に、被告人矢部博史を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人矢部博史に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人林江食品株式会社(昭和五一年四月二二日設立、同五三年三月三一日解散、現在清算中、以下「被告会社林江食品」という。)は、東京都港区三田三丁目四番一八号(昭和五三年三月一日以降は同都同区南青山五丁目九番一五号新共同ビル六〇五)に本店を置き、食品諸原料の輸入及び国内販売などを目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社、被告人東北物産株式会社(以下「被告会社東北物産」という。)は、同都渋谷区道玄坂二丁目一〇番七号新大宗ビル六一三号(昭和五五年九月一八日以降は同都港区三田三丁目四番一八号)に本店を置き、食料品及びその原材料の輸出入・加工販売などを目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人矢部博史は、右各被告会社の代表者(但し、被告会社林江食品の関係では、昭和五二年五月三一日に代表取締役を退任し、同五三年三月六日右登記がなされたが、その間代表取締役が選任されなかったため、商法二六一条三項、二五八条一項により被告人矢部が右被告会社の権利義務を行なっていた。)として、右各被告会社の業務全般を統括していたものであるが、被告人矢部は、右各被告会社の業務に関し、各被告会社の法人税を免れようと企て、期末商品たな卸高の除外、売上除外及び架空経費の計上等の方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五一年一〇月一日から同五二年九月三〇日までの事業年度における被告会社林江食品の実際所得金額が二億四六九四万七七二四円(別紙一修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五二年一一月三〇日、同都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三八〇七万二二四〇円でこれに対する法人税額が一四〇六万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五五年押第二〇三七号の2)を提出し、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額(別紙三ほ脱税額計算書1参照)と右申告税額との差額八三五五万円を免れ、

第二  昭和五三年三月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社東北物産の実際所得金額が一億九九三四万二五七一円(別紙二修正損益計算書参照)あったのにかかわらず、同五四年三月一日、同都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が五四一五万四七五〇円でこれに対する法人税額が二〇二二万四一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の3)を郵便により提出し(通信日付印は昭和五四年二月二八日)、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額七八四一万四二〇〇円(別紙三ほ脱税額計算書2参照)と右申告税額との差額五八一九万〇一〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示冒頭の事実につき

一  被告人矢部の検察官に対する昭和五五年一一月一七日付供述調書

一  東京法務局港出張所登記官作成の被告会社林江食品に関する昭和五六年一月二二日付、被告会社東北物産に関する同日付及び被告会社林江食品の閉鎖した役員欄の用紙に関する同年二月五日付各登記簿謄本

一  東京法務局登記官作成の被告会社東北物産に関する昭和五五年三月二一日付登記簿謄本

判示第一及び第二の各事実につき

一  被告人矢部の当公判廷における供述

一  被告人矢部の検察官に対する供述調書一一通

一  徳地健久(三通)及び吉田長治の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の「棚卸商品の仕入単価」、「架空役員報酬及び架空給料」、「運搬費、旅費交通費及び交際接待費」に関する各捜査報告書

一  収税官吏作成の在庫、廃棄認定たな卸商品、損益に算入されない価格変動準備金繰入額及びたな卸商品販売状況に関する各調査書

一  被告会社林江食品清算人石江宗明及び被告会社東北物産代表取締役矢部博史作成の資産譲渡契約書写

判示第一の事実につき

一  被告会社林江食品代表者清算人石江宗明の当公判廷における供述

一  検察官作成の売上高(検察官請求証拠番号甲6)及び受取利息(同甲12)に関する各捜査報告書

一  検察事務官作成の交際費損金不算入額、未納事業税額並びに雑給(臨時雇人費)及び広告宣伝費に関する各捜査報告書

一  麻布税務署長作成の証明書

一  押収してある林江食品(株)51/9期及び52/9期各確定申告書一袋(昭和五五年押第二〇三七号の1及び2)

判示第二の事実につき

一  検察官作成の売上高(検察官請求証拠番号甲16)、仕入高、発送運搬費及び保管料に関する各捜査報告書

一  収税官吏作成の架空仕入、旅費交通費、通信費、賃借料、支払手数料、消耗品費、水道光熱費、減価償却費、固定資産売却損及び交際費の損金不算入額に関する各調査書

一  芝税務署長作成の証明書

一  押収してある東北物産(株)53/12期確定申告書一袋(前同号の3)

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人は、各被告会社の期末在庫商品とされたもののなかには、各被告会社において各期中に廃棄した商品が含まれているので、これを除外すべきであると主張するもののようであるが、前掲各証拠によれば、各商品はいずれも各期中では廃棄されずに各期末に存在していたことが認められるから、弁護人の右主張は採用できない。また、弁護人は、期末在庫商品のなかには販売価値のない不良在庫等が含まれているので、これを除外すべきであると主張するが、この主張が容認されるためには、各被告会社において資産の評価換えをして損金経理をしておくことが必要であるところ(法人税法三三条、同法施行令六八条一号)、前掲各証拠によれば、期末在庫商品のなかには、もともと販売が困難な商品や長期間販売できずに商品価値が低下していると思われるものなどが含まれているものの、各被告会社においては、資産の評価換えをして損金経理をとっていなかったことが認められるから、弁護人の右主張も採用できない。

二  検察官は、冒頭陳述書において、被告会社東北物産の当期仕入高に関し、同会社が昭和五三年三月三一日被告会社林江食品の解散に際し、同林江食品からその在庫商品二億六〇四五万一七三三円相当分を簿外で引き継いでいたと主張している。これに対して弁護人は、被告会社林江食品が被告会社東北物産に譲渡した在庫商品は総額六二〇九万六四二三円にすぎず、これは両被告会社間で作成された資産譲渡契約書(検察官証拠請求番号甲51はその写)による分である旨反論し、被告会社林江食品清算人石江宗明及び被告人矢部も当公判廷で右主張に添うかのような供述をしている。たしかに、右の資産譲渡契約書写には、昭和五三年四月一日付をもって被告会社林江食品清算人石江宗明と被告会社東北物産代表取締役矢部博史との間で、右林江食品が東北物産に対し弁護人主張の金額のたな卸資産(商品)を譲渡する旨の記載がある。しかし、関係証拠によれば、検察官主張の事実はこれを肯認することができるのであって、右の資産譲渡契約書なるものは、被告会社林江食品が昭和五三年三月三一日解散されたことに伴い、法人税対策上からも、いわゆる公表分として作成されたものであると認められる。

さらに、弁護人は、右二億六〇〇〇万円余の在庫商品の譲渡契約が仮に認められるとしても、それは民法一〇八条または商法二六五条に違反して無効であると主張する。しかし、関係証拠によれば、両被告会社については、いずれも終始被告人矢部が実質上これらを保有・支配し、かつその実質経営者として実権を握り、前示の譲渡を実現させたもので、その後これら譲渡の契約について、被告会社林江食品の代表者石江宗明はもとより、両被告会社関係の何人からも所論の違法を主張して無効視した事跡は全く窺われず、本件の譲渡契約について、民法一〇八条及び商法二六五条に違反してこれを無効ならしめる事由は認められない。

また、右の事情を考えると、たとえ所論の違法が認められるとしても、そのことが課税の見地からみて国との関係で同契約を当然に無効視して所得の発生を妨げるべきものとは思われないから、これらの点に関する弁護人の主張も採用できない。

三  さらに弁護人は、被告会社林江食品の昭和五二年九月期における期末在庫商品が同東北物産に引継がれ、その一部がそのまま同会社の昭和五三年一二月期の期末在庫として存在していることをとらえ、それらの商品については両被告会社においていずれも期末在庫として二重に課税されていると主張するもののようである。しかし、前掲各証拠によれば、これらの商品については、いずれも被告会社東北物産において当期仕入高に計上(同一会社間の場合には、期首商品たな卸高として計上する。)されて全て損金として処理されたうえ、それが期末に存在した分についてのみ他の在庫商品ともども期末商品たな卸高として計上していることが認められるから、何ら二重課税の対象としているものでないことは明らかである。従って、弁護人の右主張は理由がない。

(法令の適用)

被告人矢部の判示各所為は、いずれも行為時においては昭和五六年法律第五四号脱税に係る罰則の整備等を図るための国税関係法律の一部を改正する法律による改正前の法人税法一五九条一項に、裁判時においては改正後の法人税法一五九条一項に該当するが、犯行後の法律により刑の変更があったときにあたるから刑法六条、一〇条により軽い行為時法の刑によることとし、所定刑中いずれも懲役刑を選択するが、以上は同法四五条前段の併合罪なので、同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年六月に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。さらに、被告人矢部の判示第一の所為は被告会社林江食品の業務に関し、判示第二の所為は被告会社東北物産の業務に関してそれぞれなされたものであるから、各被告会社については、いずれも右改正前の法人税法一六四条一項によりそれぞれ判示の各罪につき改正前の法人税法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、いずれも情状により同条二項を適用し、その金額の範囲内で被告会社林江食品を罰金二〇〇〇万円に、被告会社東北物産を罰金一五〇〇万円にそれぞれ処することとする。

(量刑の事情)

被告人矢部は、終戦後孤児として旧満州で中国人に育てられ、昭和四〇年に帰国した後中国との貿易関係の仕事に携わり、同五一年四月には被告会社林江食品を設立し、次いで休眠会社を買収して同五三年三月にこれを被告会社東北物産と商号変更したうえ、主として中国産山菜類の輸入・加工・販売等を営んできたものであるところ、本件は、被告人矢部において、右各被告会社の業務に関し、被告会社林江食品で八三〇〇万円余り、同東北物産で五八〇〇万円余りの法人税をそれぞれ免れたというものである。そこで、不正手段の態様をみると、被告会社林江食品において多額の期末商品たな卸の除外を行なうとともに、これを簿外で被告会社東北物産に引継いだうえ、さらに被告会社林江食品が関連会社に対して掛売りした商品の中にこれを圧縮計上してその調整をはかり、また、売上を隠すため、大巾な赤字を抱えた関連会社に廉価で販売したように帳簿上の操作をして利益をその関連会社に移し、あるいは、在庫商品を隠すため、極端に安い値段で関連会社に売却したような帳簿処理を行ない、もって被告会社東北物産に大巾な売却損を生じさせるなど複雑かつ巧妙な利益隠しを行なっているなど甚だ悪質であるほか、両会社とも脱税額及びほ脱率も決して低いものではない。しかも被告人矢部は、税務調査が入るや営業担当者らに対し、嘘の答弁をするよう指示するなどしており、以上の諸点にかんがみると、同被告人及び両被告会社の刑責は重いといわなければならない。

ところで、被告人矢部は、多額の不良在庫が存在し、これの評価損をなかなか認定してもらえなかったことなどを脱税の動機として挙げているところ、これが脱税を正当化する理由にはなり得ないことはもちろんであるが、関係各証拠によれば、期末の在庫商品の中には、商品の性質などから販売が困難と思われるものや商品価値の低下しているものもかなり存在していたことが認められるのであって、いずれ翌期以降において損金に計上できる機会が与えられていたとはいえ、この点は量刑上考慮されるべきものと思われる。さらに、被告会社東北物産では、本税分としてすでに二〇〇〇万円を納付しており、その余の未納税分及び被告会社林江食品分についても、担保を提供するなど納税のための努力をしていること、被告人矢部は、前科前歴もなく、本件により相当期間の身柄拘束を受け、反省の機会を与えられたこと、中国産山菜の輸入の分野において、被告人矢部が果してきた役割にも見逃せない点があることなど、同被告人及び両被告会社にとって有利な事情も認められ、その他諸般の事情を考慮して主文のとおり量刑する。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)

別紙一

修正損益計算書

林江食品株式会社 No.1

自 昭和51年10月1日

至 昭和52年9月30日

〈省略〉

別紙二

修正損益計算書

東北物産株式会社 No.1

自 昭和53年3月1日

至 昭和53年12月31日

〈省略〉

別紙三

ほ脱税額計算書1

林江食品株式会社

<51.10.1~52.9.30>

〈省略〉

ほ脱税額計算書2

東北物産株式会社

<53.3.1~53.12.31>

〈省略〉

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